市協「まちづくり部会−A」を開催
〜京都市市営住宅ストック活用計画をめぐって〜
8月21日(火)、京都府部落解放センターで第2回「市協まちづくり部会」が開催され、京都市から篠原すまいまちづくり課長、住宅管理課 村岡課長が参加。市協からは部員11人が参加しました。
冒頭挨拶で、宮崎議長は、「2011年2月に発表した京都市市営住宅ストック活用計画の発表から、7年間、これをベースに議論を進めてきたが、率直に言うと、計画通りに進んでいないと思う。現状と課題について説明をお願いしたい」と述べ、篠原課長が説明にあたりました。
「京都市が所管している市営住宅にも、実は様々な種類がある。大きくは、公営住宅法に基づく公営住宅と住宅地区改良法に基づく改良住宅。細かくいうと、コミュニティ住宅というのもあり、都市再生住宅というが、南岩本や高瀬川南(東九条)の住宅を指す。改良住宅の中にも、公営住宅の予算措置で改良地区に建てられた『旧地域改善向け公営住宅』がある。壬生、岩本住宅、久世南、鷹峯1棟、2棟、養正6棟、51棟、錦林18棟〜22棟、崇仁旧4〜6棟。当時の言い方で言うと『同和向け公営』というもの。もう一つは、同じ改良事業だが、小規模向け改良住宅が山ノ本で建設されている。これらをまとめて市営住宅と言っている。こういった市営住宅の状況を理解してもらった上で、ストック総合活用計画の説明に入る。
今日は、改良住宅の状況を説明する。プラス八条市営住宅が新たな方法で事業を行っているのを足して説明する。
【2018年8月31日現在の状況】
市営住宅全体 2011年から現在( )内は、改良住宅
○耐震化率 56%→76%(29%→36%)
○EV設置率 51%→59%(59%→68%)
○住戸内バリアフリー化 41%→45%(48%→73%)
○浴室設置率 71%→74%(18%→25%)
・楽只・鷹峯は団地再生中
・崇仁 下西団地浸透建設、南部団地再生
・改進、錦林、泓ノ壺 住み替えあっせん(2017年用途廃止)
※2018年度団地再生事業予算は、47億円を計上。上記の進捗でパーセンテージは上がる。
【今後の課題】 篠原:2011年度当時。まちづくり委員会をつくり、新棟建設委員会をつくり、各地区に新棟を建設してきた経過があるが、2006年度の京都市の財政危機により、新棟建設は凍結されたという状況。2011年度に団地再生計画がだされ、現在楽只で着手している。
崇仁北部はもともとの改良事業が終了していない唯一の地区で、改良事業が進んでいる。崇仁南部では団地再生事業を2017度の基本計画に基づいて、2018度に基本設計に入っている。2011年度ストックとして進めていく事業は、10カ年で2020年度にピリオドを打たねばならないが、今の京都市の財政事情で予算をとることは難しい。すでに2021年度に向かった新たなストック計画を準備している。2020年度に次期ストックを発表し、2021年度から実施。指針に向けた予算を現在要望している。 こうした状況の中で、八条市営住宅について新たな手法での事業をおこなった。団地再生事業という大きな建て替え事業では、実質100億円程度のお金がかかってしまうが、現在すでに京都市の財政事情では基金が底をついてゼロ。新規事業は抑制され、継続事業の要求しかできない。高度経済成長の時期に市営住宅を多く建設してきた。向島ニュータウン、洛西ニュータウン、醍醐周辺地域等。これを一遍に建て替えるのは不可能で、平均的、全般的にゆるやかに建て替えようというのが基本的な考えだが、それさえ、もはや厳しい現状。そこで、どのような方法でやっていくかというときに、新たにPFIという方法で建設することとした。
例えば八条団地では、総事業費として54億円程度が計上される。国の補助金を入れても、本市の負担が34億円程度かかる事業。それをPFIだと、総事業費が49億円と下がり、整備費も3.5億円下がる。国補助金もBOT方式を加えて、家賃対策調整補助金、約10年間民間管理にあてて、民間から引き継ぐ借り上げ公営住宅にすると、9億円が出る。それを合わせてやることで、市の負担額が34億円から21億円にできたということ。これは、国のセーフティネット法の改正にともなって可能となった。一部の土地を売却し、その利益をこの21億円の市負担にあてていく。市が売ったところはコミュニティミックス、売却の条件として市営住宅を建設して、そのヨコに分譲住宅を建設してミックスを図るというのが今回の狙い。ただし今後もこの方式を継続するかどうかは、このモデルを検証しながら進める。」
ここで、一旦説明を区切り、質疑に入りました。
宮崎:我々はこれまで、公費で建て替え住み替えが始まるとストック計画を受け止めていた。現在千本で事業は展開しているが、それから先へ不安がある。財政問題も聞かせてもらったが。八条団地のケースは、10年間は長谷工が家主で京都市が家賃保障をする。10年後には権利を長谷工に渡して、長谷工は手を引く。今後はまたわからないということの理解でいいのか。
篠原:セーフティネット法の改正で、新たに国が交付金とは別に補助金を出すということで、BOT方式をとった。最大10年間使える。BOTとはビルド、オペレーター、トランスファーと言って、建てて、完備をして、引き継ぐということ。長谷工グループが市営住宅を建てた。その戸数分の家賃は、京都市が10年間リースで借りる。家賃はリース分10年間払う。この分については国からの補助金が出るのでそれを払う。10年終わったら、京都市に建物ごと返してもらう。10年間は建物の登記は長谷工にあるので、固定資産税も払ってもらう。土地も定期借款で貸すから借地料も入る。その分をリースで払うこととなっているので、トータルで京都市の負担が減ったという手法だ。
宮崎:家賃設定、入居の基準は従来通りで差額を京都市が払うということ。
篠原:管理は長谷工がする。家賃徴収など金額は京都市公営住宅の基準。
宮崎:千本地域では来年10月に鷹峯の住民がもどってくる。鷹峯の住宅跡は売却することになる。改進地域は、飛び地の泓ノ壺について用途廃止。これも転売と聞いている。今後の事業展開は田中地域かと思っていたが、今の計画は見直すが、実際に全く違う方法で見直される可能性が高いのか。
篠原:高い。改良住宅だけの問題ではなく全般的に公営住宅の問題。公営住宅法では建物はRC法で70年間基本的に維持管理をしなければならないと決まっている。それを30年間積み足して100年間維持しなさいというのが国の指針としてあり、その補助金にもとづいて耐震など行っているが、100年というと、時代のニーズに合わないという現実がある。住宅建設は減価償却の時代になっている。八条でいうBOTはまさにそうで、建築した物件を減価償却して、30年くらいを目途に建て替えていく。安いコストで建てて、次のニーズに合うような建物に変えていく。実際30年も経てば、社会ニーズが変わる。住宅設備も家電もどんどん進化している。昭和30年代に建ったものは狭小でとなり、今の標準は70平米でシステムキッチン。ガス急騰器も古くなり、今は換気扇も集中になっているということで、今後の時代のニーズにあったストック計画を考えざるを得ない。ただ、これは個人的に思っているだけで、それに合わせて次期の計画は財政上の問題も踏まえて具体的にどうするか議論している。
宮崎:民間が団地再生をするというときに我々が心配するのは、駅が近いなどの魅力のある場所だけに事業が集中し、相対的に不便な地域は取り残されるのではないかということ。我々の土地は、そこでしか住めなかった土地。部落差別によって結婚や就職や居住の自由がなかった。そうした中で改良事業が始まったが、民間は部落の過去の歴史や部落問題について考慮せず、ただ汚い住宅を新しくするというだけでは納得できない。民間をあてにするのは否定はしないがそのような視点を入れておいてほしい。
篠原:地区によって文化継承が全部違う。地区によって課題も様々である。京都駅から北部については、市営住宅についてオールクリアランスで地域全体が市営住宅。南部地域、改進、久世、辰巳については、一部クリアランス。旧同和ネットの中に一般の戸建ての家もあって市営住宅も建っている。また、都心部の三条地域、壬生、崇仁などの一等地と、郊外では土地の値段も全然違う。充分に議論しながら整理していかないといけない。民間が一等地ばかり標準にすることはしっかりと協議しながら今後進めていかなければならないと思っている。
木下:結局部落問題を解決する視点は見えてこない。単に建て替えというだけになっているのでは。このままでは部落そのものが、なくなっていくことになる。現実に差別が解消されたという現実になればいいが、その辺の兼ね合いはどうか。
篠原:今はハード面の説明にしかなっていないが、今後は、現在楽只でもやっているが、地域特性の文化継承があるので、人権問題も踏まえて、どのようにまちづくりをしていくかということは、単に建物を民間に建てさせて入れ替えしていくということではない。実際改良事業をしていったときに、箱物の市営住宅を建てて、事実上こういう結果になったと思っている。これをどうしていくかという、さっきのPFI方式を導入するなら、これまで私も入居(管理)の仕事をしてきたが、その中で分譲マンションつくるなり、それで地域に若者が入ってきて、地域の祭りや風習を含めて承継していけるようなまちづくりを今後検討していく余地はある。民間においしいところだけ売るとかではなく、PFIでも土地売却の条件もあるので、楽只も今後PFI導入するかを含めて協議している最中。楽只がモデルになっていくと思うし、そういうところでしっかりと、人権も踏まえて、『ツラッティ千本』(資料展示施設)もあるし、北部地域のにぎわいであった再生をどうしていくかということも大きなテーマになっている。
木下:もう1点。今まで改良事業があったときは、地元との関わりがあったが、今は全く途切れている。住宅局の職員が直接来るということでなくても、まちづくりをコーディネートする人材を派遣するなど、ソフトの事業とからめながら住民を集めて考えていくような、具体的な取り組みも含めて考えてほしい。
篠原:かつて隣保館政策があった時代に、当時地区担当者が隣保館にはりついていたというのは、過去の資料で聞いているが、改良事業室の地区担当が改良事業をずっとやっていた。今は、人員削減ふくめて、公営も改良もすまいまちづくり課で、地区担当というのがない。事業を立ち上げて、その事業に担当が入るという形式だ。事業がなくなると担当がなくなる。次の予算がついたところに新しく担当が入るという形で回っている。今でも、かつての感覚で、地区の人から電話がかかってくることがある。
木下:その当時の質ではなく、もう少しアドバイスできる人という意味だが。
篠原:正直、京都市では住宅の管理に関して住宅供給公社に管理代行している。住宅にはもう管理する者はいない。住民サービスの向上という意味では,公社に、調整課というところもあるので、そういう部署を育成していくのも一つの考え方かなと思う。
木下:大学などと連携して、調査などをするという予算は。
篠原:その点は、今現在もやっている。醍醐中山団地で、団地の自治会と京都橘大学と京都市の三者連携協定を結んで、大学の地域連携センター分室というのを市営住宅の一部につくり、学生にそこに入ってもらって、団地全体の地域連携のサポートをしている。学生もグループで住んで地域活動をしてもらう。2014年からしている。モデルとしてやって次の段階で各大学との協定を結びながら、他でも進めている。
宮崎:すまいまちづくり課の体制は、課長が3人。北部、崇仁、南部に担当がいると認識している。その体制では、計画はあるが、人がいないということで、計画倒れになるのではないか。それだったら、地元と協力できる業者を呼んで、地域の歴史も踏まえた上で事業協力者を引っ張って、提案した方が話しが早いのではと思うが。
篠原:それも一つの意見としてありうるとは思う。最終的には入札となるが。すまいまちづくり課に関して職員が51人いる。各担当課長が7人、係長、職員という構成。住環境整備事業も団地再生、耐震改修もやっている。地区の固定は難しい。
宮崎:人が足りないということで、民間を使うとしたら、八条団地については、民間から話がきたのか、役所が募ったのか。早く進めていかなければならないのなら、私たちも自力で考える。
篠原:八条はPFI・BOTという方法で仕様書で条件を提示し提案を求めた。各企業からきたが、規模が割と大きいので、長谷工くらいの業者でなければ対応できない。京都の企業ではできない。あまりにも大きいのでブロックで割るなどの工夫も必要。もともとあそこは大阪奉行所跡で埋蔵文化が多い。地質調査や文化財の調整もあり10年くらいかかるような団地。
宮崎:立地がよければ民間は来る。もっていかれるだけではどうか。差別が原因という歴史、同和地区の歴史について頭に入れておいてほしい。一方地区の浴場について、委託の期間が4年だったところ、今回は3年となった。心配しているのは、そこで終わらせるのではないかということ。市議会でもそのような意見があったのではないか。
篠原:浴場は、現在老朽化が激しく、しょっちゅう故障している。ボイラーや防水、耐用年数を超えて、修繕しても長期休業が必要。ストック計画が思うように進まず待ってられない状況。直近のめどがたてば、修繕で行く。まだ10年以上かかるところは、浴場の機械を新しくする必要がある。この3年の間に、ストックの計画に合わせて浴場の修繕計画を打ち立てていこうとしている。
宮崎:次に市営住宅の公募について議論したい。改良住宅の公募についても、年1回9月に行うということだが、我々は皆知らなかった。
篠原:もともと一般公募は、住生活基本法に基づいて計画を定めている。1000戸の供給を行うことが法律で決められている。その内300は、府営住宅が募集。700は京都市市営住宅が募集しなければならない。改良住宅は、当該ではないが、準用で一緒に公募している。原則的に改良住宅は9月募集でお願いする。整備事業に合わせて別の月もある。それほど数もないが、4,6,12月に募集する場合もある。
村岡:毎年のペースは20戸前後だったが、整備費用の予算にも限界があり今年は5戸の募集になる。平成15年から改良住宅の入居が始まり、29年度末で233戸が入っている。
宮崎:我々の要望は、たくさん応募しろという主旨ではない。改良住宅にはかつて、ローカルルールというのがあったが、今は全部なくなった。現実として、一旦独立して地域を出た子どもが、離婚などで親元に帰ってきているケースでは住居は手狭だ。かつてなら公営もどし、過密対策といった制度を使えたが今はないので、困っている人に対して今の制度で改良住宅を募集する場合に、広報発表してもらえたらと思う
村岡:私も、できるだけ多くの人に公募を知ってほしい。公募があれば一般としてお伝えする。今回はもうすでに行っており、東岩本1戸、山ノ本2戸、辰巳2戸の募集がある。
西條:非常に限られた地域であり、東三条は全く公募がない。話しも全く進まない。
篠原:養正地域もだが、団地再生の検討団地ということで、楽只、養正、錦林、三条が一般公募の停止をしている。整備費が高く付く住戸しか残っていない。間取りを変えている住戸の整備費には何百万とかかる。また既存不適格の建築が多くあり、仮に建て替えたときには今の階数の棟は建てられない。継続活用棟に関しても、このまま耐震整備をしていくかどうか、検討中である。これから新たに入居があると、改修するにしてもその間の行き先がなくなり、楽只に関しても2014年度から停止している。移転費用、建築コスト、管理コストのすべてで、増やすことは難しい。実際公募をしても、応募が殺到するわけではなく、公募割れする場合もある。現実としては戻ってきている人は少ない。収入要件もあり、現役の共働きでは入居できない。
最後に多子世帯用住宅について議論されました。篠原課長は、「もともと多子世帯用という考え方は改良住宅にはない。住戸面積について、一時期70平米を超えるものも建設されたが、法律が変わり、今は60平米前後である。民間賃貸や民間分譲も含めて、地域づくりという観点で考えていく必要がある」としました。介護同居等、一緒に住みたいとなれば制度もつくったので、そこを活用してほしいということでした。
その他、住宅管理の在り方、住宅供給公社の仕事を民間委託している事例や地元での管理を模索している先進地について、意見交換しました。また、全体をとおして、住宅政策を単にハード面でとらえるのではなく、まちづくりや福祉の観点から検討することの重要性も確認されました。
いずれにしても、京都市の財政状況のひっ迫により、当初の住宅ストック活用計画にかなりの変更があり、その後の計画については「検討中」という状況であることから、具体的な進捗状況について知るためにも、定期的に部会を開催していく必要があります。
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