私たちは今、何をすべきか
−これからの部落解放運動−
はじめに
本年は世界人権宣言70周年です。2度にわたる世界大戦を経験した人類が得た教訓は、差別撤廃と人権の確立こそが平和の基礎であるということであり、国際社会がそのための努力をすすめていくことが必要であるという自覚でした。日本国憲法もまた、その精神を充分に活かし、つくられたものです。
しかし、安倍政権は「特定秘密保護法」に続いて、憲法違反の集団的自衛権容認の「戦争法」そして、昨年は戦前の治安維持法の再現かといわれる「共謀罪」を強行成立させ、「戦争をする国」づくりを着々と進めてきました。
昨年10月、森友学園・加計学園問題での追及をかわすため、野党からの国会開催要求を延々と引き延ばしたあげく、ようやく開いた臨時国会冒頭で解散を表明。「国難突破選挙」などと北朝鮮情勢の危機を煽ることで自らの危機を逃れようとしました。大義なき総選挙に批判が相次いだものの、野党の足並みの乱れにより、自・公の与党はまたしても3分の2の議席を獲得してしまいました。それを受けて自民党は昨年11月、憲法改悪に向けて「憲法改正推進本部」全体会合をひらき、「自衛隊の明記」「教育の無償化と充実」「緊急事態対応」「参議院の合区解消」の4項目を中心に、党内の意見集約を開始しました。
しかし、今年に入り、両学園問題の他にも「戦地」派遣自衛隊の日報隠蔽問題や、公文書の改ざん、虚偽答弁の発覚等が相次ぎ、安倍政権のおごりと強引な国会運営、内閣人事局創設による官僚の統制とその結果としての腐敗、忖度に対し、多くの市民が厳しい視線を投げかけています。
一方で、平昌(ピョンチャン)オリンピックを契機として、緊張していた朝鮮半島情勢に和解の兆しが見えました。1953年、米朝中の3カ国で結ばれた「休戦協定」から65年ぶりに「終戦」となろうかという情勢です。様々なルートを使って対話を積み重ねようとする韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を尻目に、日本の安倍首相は相変わらず「最大限の圧力」を繰り返すばかりですが、北朝鮮と友好条約(国交)も結ばず、戦争の謝罪もしないまま危機だけを煽る態度は、アジアの緊張を高めるだけの危険なものです。
私たちは、武力では平和も人権も守られないことを肝に銘じ、これからも戦争をさせない京都1000人委員会に積極的に参加し、改憲阻止3000万人署名の取り組み、沖縄の辺野古新基地建設反対のたたかいなどを通じて、安倍政権のすすめる戦争への道を、断固として阻止していかなければなりません。
この間、安倍政権がすすめてきた経済政策は、デフレ脱却に向けた日本銀行の「異次元の金融緩和」で、株価高騰の景気回復を演出しているものの、いっこうに実体経済を改善することができず、連続する実質賃金の低下で、貧困と格差を拡大、固定化してきました。また、非正規労働者の増大で、働いても生活保護水準以下の収入しかないワーキングプア世帯や貯蓄ゼロ世帯が急増しており、子どもの貧困も深刻な社会問題になっています。そうした中、「働き方改革」として労働者派遣法改悪を強硬し、解雇の自由化、「残業代ゼロ法案」など、労働者を守ってきた労基法そのものの破壊を目論んでいます。
人々の社会に対する不安や不満は、より弱い立場にある人々に向かうとき、排外主義やヘイトスピーチに結びつきます。権力が民衆の意識を操作し誘導する傾向は、日本だけではなく、ヨーロッパ各国での極右政党の台頭、アメリカトランプ大統領の自国第一主義にも表れています。
天皇の「生前退位」は、新元号の制定を含めた祝賀ムードの中ですすめられようとしていますが、国権主義や復古主義の動きに反対していかなければなりません。
戦前に蔓延していた「優生思想」は、戦後も1996年に「母体保護法」へ名称を変更されるまで「優生保護法」の名称で法律として残り、その間「不良な子孫を残さない」ことを理由に障害者に対して不妊手術を強要していた事実が、この間の当事者からの訴えで次々に明らかとなり問題となっています。北海道での手術件数が多いことは、アイヌ民族差別とも関連があるのではとも言われています。私たちは、過去のこうした過ちから目をそむけることなく、勇気をもって訴え名乗り出た当事者の思いを共有し、「基本的人権の尊重」が脅かされる事態にたいして、敏感に対応していく必要があります。そのことが、部落差別も含めたマイノリティの尊厳、全ての人の人権を守ることにつながります。
部落を取り巻く課題
部落解放運動の基盤は地域にあります。市内それぞれの地域には、これまでの「同和」対策事業で建設された改良住宅をはじめ「いきセン」、体育館、児童館、旧学習センター、浴場、保育所などの公共的施設があり、その利用や運営などは、過去の行政主体による画一的な運営(公設公営方式)から、現在は、指定管理者制度の導入や用途変更などにより多様な方法が取られています。
このような現状を直視しつつ、これからの部落解放運動の活性化をはかるためには、これらの施設を活用して、部落の枠を超えた社会連帯をめざし部落解放運動のすそ野を広げ、地域から「仕事・雇用」を作り出す取り組みを進めていかねばなりません。地区内の生活実態は少子高齢化、人口減少、ひとり親家庭、生活保護世帯等の増加等、一般の地域が抱える問題が先鋭化していることは、各地区共通の課題として私たちはすでに、充分に認識しています。
市協は2011年度の活動方針で「福祉で人権のまちづくり運動」を進め、現在も提唱しています。この「福祉で人権のまちづくり運動」とは、生活基盤が不安定な住民への支援や相談等、寄り添いながら福祉施策などにつなげていく運動です。困り事を抱えた市民が行政を頼り、依存することは自然体ですが、部落解放運動の世話役活動は、同盟役員等が積極的に関わることが大切です。言葉では簡単に言えますが、行動することは容易ではありません。相談内容も「福祉」「子育て・教育」「住環境」「仕事・雇用」等をはじめ結婚問題や友人関係、恋愛関係の悩み、職場や地域での人間関係などの差別事象があげられます。京都市担当局・課から講師を招いて学習し、知識を蓄えて相談活動などに活かすことが、組織の自力自闘、住民の自律更生につながります。私たちは、制度や施策、法律の改正、条例の制定などの社会的変化に対応するため、引き続き「まちづくり・福祉部会」「保育・教育部会」「人権確立部会」の市協三部会を活性化と定例化させます。
今、何をすべきか
「まちづくり」については、2011年2月に策定された「京都市市営住宅ストック総合活用計画」が、諸事情により計画通りに進んでいません。「千本地区」においては、住民の協力や支部のバックアップ等により、2020年度中には新たなまちに生まれ変わろうとしていますが、今後については、計画当初から懸念されていた財源不足が現実となり、今年2月に発表された市営八条団地再生計画では民間資金を活用した、新たな手法で進められることになりました。同計画は、あくまで住宅の建替えや住み替えであって、人権や福祉等の視点は皆無に等しいものです。私たちが求めている「まちづくり」は、住宅だけでなく、道路や公園、公共施設が高齢者や障がいのある人にとっても住みやすい、ハードとソフトの両面の環境を考慮した計画の実現です。
福祉分野については、一昨年の「社会福祉法」の改正によって、京都市地域福祉計画が様々な計画の上位計画に位置付けされています。その中心は地域共生社会の実現に向けた地域福祉の推進とあります。それは、これまでの福祉政策の縦割りを超えて、地域住民や地域の多様な主体(団体や自治組織等)が「我が事」として参画し、人と人、人と資源が世代を超えて「丸ごと」つながることで、住民一人ひとりのくらしと生きがいをつくっていく社会のことです。かなり高いハードルですが、部落解放運動で培ってきたノウハウを活用すれば実現可能です。ただし、部落と隣接する地域(学区)の人々に部落を忌避(差別)する意識があれば地域共生社会は実現しません。今後、京都市に対して、地域共生社会の実現のために差別意識をなくすための取り組みを求めていかねばなりません。
「人権確立部会」では、「部落差別解消推進法」を活用して具体的な提起と取り組みを進めて行きます。33年間続いた「法」時代は、属地属人方式を用いて、個人給付施策をはじめ地域の環境改善事業を集中的に進めてきました。しかし今回の法律は、国民や市民に対して部落差別は社会悪であり差別のない社会をつくろうと訴えている法律です。戦後、わが国の法律は基本的に当事者対策です。例えば、障害者に関係する法律は、障害当事者への保護や施策が中心でした。同じように「同和」対策でも、当事者対策として取り組まれてきましたが、差別実態の改善になっても、差別の解消には至りませんでした。差別をなくすためには、当事者以外の人々に対する、教育、啓発、研修、相談などの対策を通じ、意識を変えていく必要があります。社会に存在する一般の人々の眼差しにこそ差別や生きづらさの原因があり、そこに食い込まない限り差別の解消には至りません。
それゆえ、この法律は従来の事業法の復活ではなく、社会にむけた教育、啓発などを通して、差別のない社会をつくろうとする法律であり、障害者差別解消法、ヘイトスピーチ対策法も同様であることから、私たちは人権3法と位置付け、今後の人権行政の大きな方向を決めると認識しています。
この基本的認識から、「法は人の心を動かし」「法は人の態度を変え」「法は社会に秩序をつくる」ことを基本に据え、職員や市民に法律が制定された意義を周知する研修・啓発活動の強化を求めていきます。法第五条では、教育、啓発は「地域の実態に応じて」との文言があります。各支部では、区役所の区民啓発の実態をチェックし、地域の特色や歴史的経過をふまえた啓発の取り組みを訴えていきましょう。
この4月から京都府の公共施設において、ヘイトスピーチを規制するガイドラインが作成され適用されていますが、京都市も同様の規制をスタートさせることを決定しました。こうしたことも、私たちの運動の成果であり、部落差別解消推進法についても、「差別を許さない」という社会の合意を具体化させる、条例を作成していくことが重要です。
他方、戸籍等の不正取得抑止のための事前登録型本人通知制度が導入されてから3年有余が経過しましたが、登録者数は市民全体の約0.7%しかありません。窓口での勧誘や周知ポスター、定期的な「しみん新聞」などの広報媒体等を活用して啓発の強化、職員研修の充実、様々な場を活用した周知、制度の改善などを求めていきます。
部落解放運動の究極は人づくりです。「教育・保育部会」の課題は子どもたちの将来を大きく左右します。しかし、格差の広がる社会で、地域に住む子ども達の実態は、ひとり親家庭、生活保護世帯など、親の所得が相対的に低い貧困家庭が見受けられます。一部の支部では、ひとり親家庭の子どもの居場所づくり事業や子ども食堂などの支援に取り組んでいます。かつて、自分たちが経験した差別と貧困の二重苦を子や孫に味あわせないためにも、支部活動の柱として取り組みを進めましょう。また、教育懇談会などを開催して、保護者啓発、教職員研修の実態とこどもの実態把握に務め、改善策をPTAや民生児童委員協議会、社会福祉協議会など地域内外の人々と協働して取り組みましょう。
全国水平社創立100周年まであと3年有余です。各支部においては100周年をどうのように迎えようとしているのか、支部自慢、ムラ自慢運動を機関会議で検討し、今年中には具体的な取り組み内容を明確にしましょう。
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