私たちは今、何をすべきか
                                              −これからの部落解放運動−

 

はじめに

 昨年7月の参議院選挙により衆参のねじれを解消した安倍政権は、「積極的平和主義」を掲げ集団的自衛権の行使容認に向け突き進んでいます。戦争放棄をうたう憲法9条の改悪に向けては、広範な世論の反対にあうなか、とことんまで解釈をゆがめた形で、自衛隊を「軍隊」として戦争に参加させようとしています。
 来年2015年は日本の敗戦から70年の節目となりますが、主権在民、出自や性や国籍によって差別されることのない個人の尊厳等、憲法に謳われる基本的人権の尊重は、民法、刑法、労働法等の分野で、いまだに実現を待たれているというのが現状です。天皇制・戸籍(家)制度等を軸として、戦前的価値観を温存・再生しようとする保守勢力とのせめぎ合いの69年だったとも言えます。そうして今、立憲主義そのものが崩壊するのではと、多くの人々が危機感を募らせています。
 アベノミクスが円安と株高を演出することで、富裕層へ恩恵を施す一方で、多くの人々の生活実態は、格差が広がり家族間の紐帯は薄れ、不安を抱えた個人が確かな未来を見据えることができず、やっとの思いで日々を過ごしているという現状です。そのような中「強く優位な国家像」という幻想だけにしがみつく若者層も出現し、ヘイトクライム、ヘイトスピーチの横行を許してしまっています。
 しかし、こうした殺伐とした現実にあるからこそ、差別事象に対しては、明確に禁止するのだという強いメッセージとともに、人権侵害救済法あるいは、もはや直接に「差別禁止法」の制定がかつてより以上に切実に求められているのだと言えるでしょう。

部落を取り巻く課題

今期も市協は「まちづくり部会」「人権確立部会」「保育・教育部会」の3部会を基盤に活動をおこないます。
「まちづくり部会」については、この間「福祉で人権のまちづくり運動を!」大きな柱として取組を進めてきました。具体的には、「京都市市営住宅ストック総合活用計画」を活用し、各地域の特性を生かした新たなまちづくりですが、二つの課題がありました。一つは、これまでの改良事業によって、一部の地区内用地が未登記のまま私有地として放置されている実態が明らかになったことで、早期に解消することを強く求めてきました。現在、7地区26筆が判明していますが、一件だけが市会に提案された状態で、遅々として進んでいません。もう一つの課題は、ほとんどの用地取得に国からの補助金が投入されているため、住宅用地を社会福祉施設整備に転用、また逆に社会福祉施設を住宅用地に転用等の用途変更をすることは「補助金の適正に関する法律」により原則的にできないことです。これは一般事業や同和事業に関係なく、補助金が投入されているすべての用地や建物が対象です。市協は、「補助金適正化法」の弾力的運用や見直しを求めて、中央本部等の協力を得て国土交通省交渉を行いました。国からは「全国的にコミュニティバランスや空家活用などの事業を含めて避けて通れない課題であることは承知しており、提案があれば京都市と個別協議をして地域の取組を加速化させたい」と前向きな考えが示されています。
「人権確立部会」については、主要な闘いとして位置づけた「戸籍等の大量不正取得事件」の真相究明と再発防止の闘いは、2ヶ年にわたる取組の中で「被害者通知制度」と「事前登録型本人通知制度」を勝ち取ることができました。
 これまで個人情報を大量に売り買いする行為は、不正取得を防ぐ様々な方策を用いても、いたちごっこのように繰り返されてきました。個人情報のみならず、その家族関係や変遷をも網羅的に記載されている戸籍謄抄本は、皮肉なことに原則公開から8士業者の職務上請求用紙を使用しての請求に限られたことから、むしろ希少価値により「高額取引」の対象となり、ビジネスが展開される結果となりました。そこでは従来からの身元調査による結婚差別だけでなく、ストーカー殺人事件やおれおれ詐欺の銀行口座開設、偽造パスポートによる犯罪に悪用される事件にまで発展するケースもありました。
 不正防止の手段としては「事前登録型本人通知制度」が有効とされており、京都市もこの6月から制度の導入が実現します。8士業の中でも、特に弁護士会が業務の妨げになるとして反対を表明したことから、通知は、取得から30日後となりました。また、第三者の名前や肩書きなども通知されず、交付年月日と証明書の種別、交付枚数、請求種別のみ知らされるということで、不審な場合は別途個人情報開示請求をする必要があるなど、今後の課題とすべき点はいくつかありますが、これまで、自分自身の情報に対して、コントロールする権利が奪われていた現状から、一歩前進したというべきでしょう。
 とりわけ47都道府県の中で「被害者通知制度」と「事前登録型本人通知制度」の両方を全市町村で制度化しているのは京都府だけであり、特に、市協の取組に呼応した京都市の姿勢と役割は大きなものでした。今後は、8士業団体への啓発と登録者数の増加にむけた市民への周知や申請手続きの簡素化などを提案し、真に実効性の高い制度設計にして、市民の個人情報が保護されるよう取組を強化していきます。
また、京都市公文書公開請求などによって明らかになった、市内で発生している人権侵害にかかる差別事象は、その多くが落書きです。特に、在日外国人(特に、韓国・朝鮮人)に対する卑劣な内容が多く含んでいました。また、現職の自民党等の国会議員や市会議員(特に、女性議員に対して)を名指しして卑猥なことばで中傷・誹謗するなど、見るに堪えないものもありました。一部の政党や議員は、落書きは消去すればいいと主張していますが、書かれた本人の立場に立てば、消して済む問題ではありません。被害者への救済や人権侵害を許さない世論づくりや市民啓発などは行政が確たる方針をもって対応しなければなりません。現在、差別落書きなどを対応するとした「差別事象に係る対応についてのガイドライン」では、各局がバラバラの対応で施設管理者の認識の濃淡で取組が変わっており、事件の共有化や啓発研修の教材化にはなっていません。早急に「ガイドライン」の見直しがされるべきです。 
「保育・教育部会」の課題については、いわゆる「同和」奨学金の返還問題があります。
2009年に実質的な「給付制度」を保障する「自立促進援助金」制度が廃止され、返還がせまられるようになりましたが、生活保護基準の1.5倍以下の収入の人に関して「返還免除制度」が設けられ、多くの人がその対象者となっています。5年に1度の所得審査(更新手続き)が必要とされ、今年は、前回から初めての更新の年となります。労働環境や世帯の環境が変化するなか、あらためて、丁寧な説明がされ、プライバシー保護にもつとめながら、スムーズに更新手続きが進行するか注視していく必要があります。市協としては、返還免除を最大限活用して、多くの対象者を救済することを基本に、免除対象者にならなかった者への支援策を協議していきます。

今、何をすべきか−これからの部落解放運動

京都市内では田中地区、東三条地区、西三条地区、七条地区などで、立ち退きが完了していない地上物件がいくつかあり、まちづくりに支障を来す恐れがあります。京都市公文書公開請求を行うなどして実態を究明していきます。なお、ストック総合活用計画についての基本的な考え方については、私たちが提言している有効活用とは、これまで同和対策事業で整備されてきた学習センター、保健所分室・診療所、保育所及び駐車場などの広義を指すものです。福祉で人権のまちづくり運動は、こうした全ての地区施設を有効活用を図り、交流人口の増加によるまちの活性化を目指すものであります。
 したがって、改良住宅の建て替えや住み替えを意味した都市計画局の狭義の「京都市市
営住宅ストック総合活用計画」でないことを再確認しておきます。
また、改良住宅の店舗数は、全市で157店舗があり、京都市が実施したアンケート調査によると、「営業中」が71店舗、その他が「休業もしくは廃業」となっており、さらに、継続活用ができる店舗数は79店舗、集約する店舗数は78店舗となっています。これらを念頭に、空き店舗の解消を図るため、入居の見直しによる、地区内外への公募により活性化と交流人口を促進し、賑わいのあるまちづくりを推し進め、他方、現在も続いている改良店舗の住宅家賃の「8割減免」の存廃を含めて議論しなければなりません。
 現在の店舗形態と特徴
  ○ 集約住棟にある店舗・・・田中地区(地区内向け)、錦林地区(地区内向け)
東三条地区(地区外向け)
  ○ 継続活用棟にある店舗・・西三条地区(地区外向け)、崇仁地区、(地区内向け)
改進地区(地区内向け)、東三条地区(地区外向け)
○ 集約住棟及び継続活用棟にある店舗・・千本地区(地区内向け・地区外向け)
○ 仮設店舗     ・・・改進地区
福祉で人権のまちづくり運動については、この3年間で徐々ではありますが運動の広がりが進んでいます。今年は、京都市の公共施設などの多くが「指定管理者制度」の更新年でもあり、とりわけ、「いきセン」「体育館」「浴場」などの地域に密着した施設管理・運営は私たちの手で行い、住民自治による運営に取り組みます。そして、雇用創出を図り、まちづくり運動を活性化させていきます。
第18回統一地方選挙については、組織内候補である平井斉巳府連書記長(府会・北区選挙区)の再選と大野征次(府会・八幡市選挙区)の五選を目指して、共闘団体や個人と連携して取組みます。また、京都市会については、民主党公認候補者の全てを支持するのではなく人権、平和、環境等の課題を積極的に連帯する候補者と公明党公認の候補者の必勝も目指します。
労働組合との共闘・連帯については、特に、教育現場には部落出身者が多く働いています。京都市学校職員労働組合、京都市学校給食職員労働組合、京都府教職員組合(きょうと教組)の教育関係労組との組織拡大にむけた取組を進めていきます。
こうした取組は、部落解放運動と労働運動の連携が相互の組織強化になり、真の連帯につながります。
 厳しい情勢にあるからこそ、部落解放運動が先頭に立って、あらゆる人々の人権が確立した社会を、広範な人々とともにめざしていきましょう。私たちは、これからも自力自闘の原点を同盟員一人一人がわがものとし、差別の痛みを知る者だからこそ希求する、人間解放の理念を、多くの市民に伝えていきます。