私たちは今、何をすべきか
                                              −これからの部落解放運動−

 

はじめに

 

 戦後70年、過去の侵略戦争についての謝罪と反省が、この70年間不充分であったことに思いをはせ、近隣諸国との平和と友好へ決意を新たにすべきこの節目の年に、安倍政権は、この国をふたたび戦争のできる国家へと作り替えていく「平和安全法整備法案」と「国際平和支援法」を閣議決定し、515日、国会へ上程しました。憲法9条の理念に基づき、少なくとも他の地域に赴いて参戦するすることのなかったこの国の在り方が、根本的に変わっていこうとしているのです。そしてその先には、明らかに「改憲」への道筋が視野に入れられています。

 戦後、占領軍であるところのアメリカの世界戦略にまきこまれながら、「自衛隊」は限りなく「軍隊」に近づきつつも、それでも一定の歯止めを維持することが、むしろ日本の「経済成長」を支えてきたのです。9条があったからこそ、憲法1条である天皇制と皇室典範が残っても、他国はかつてのような侵略行為には至らないであろうとの信頼を寄せていたのだと言えます。戦没者を英霊として祀る靖国神社に閣僚が大手をふって参拝する政府は、世界の良識からは奇異にうつることでしょう。著名な歴史学者187名による「日本の歴史家を支持する声明」は、特に元「従軍慰安婦」をめぐる歴史認識に触れその過ちを直視するよう促すものでした。

 「平和と安全」が戦争遂行を準備する言葉となることを許すことはできません。武力行使により敵の命を奪う戦争は最大の人権侵害であり、戦争遂行を許す「銃後」の日常も個人の尊厳を徹底的に剥奪するものであったことを、過去の歴史から知るべきです。

 だからこそ今「ヘイトスピーチ」が煽る「差別排外主義的扇動」に対して、私たちは危機感を持って対処する必要があります。部落解放同盟が取り組んでいる「人権侵害救済法制定」に向けた運動もまた、戦争を抑止し、平和と人権が尊ばれる社会の実現に寄与するものです。

 

部落を取り巻く課題

 

 私たちを取り巻く課題に対して、今期も「まちづくり部会」「人権確立部会」「保育・教育部会」の3部会を基盤に活動をおこないます。

20112月に京都市が策定した「京都市市営住宅ストック総合活用計画」を活用した、市内の「同和」地区のまちづくりを提唱していましたが、計画が順調に推移しているとは言えません。耐震化率、バリアフリー化率などの数値目標は70%とありますが、改良住宅では2030%台に留まっています。また、市内の改良住宅は、1階が店舗となっている「店舗付き住宅」が総数で157戸ありますが、約半数は営業しているものの、残りの半数は廃業もしくは、休業してシャッターが降りたままの状態です。この、閉店した店舗が道路沿いに並んでいる風景が、地域の賑わいのなさを一層寂しいものにしている現実があります。部落解放同盟京都市協は、この空き店舗を地区内外に公募をかけて、地域の活性化と賑わい、有効活用を提案していますが、担当部署は消極的な姿勢に終始しています。

そうした中でも、千本地域では、楽只市営住宅の空き店舗の活用については、ワークショップの開催やイベントの実施等による賑わいづくりの取り組みを、本年1月から具体的にスタートしました(1000KITAプロジェクト)。これは、地域の枠を超え、「市北西部の地域力向上」に貢献する新たな拠点として生まれ変わるための実験的な取り組みです。このように、「同和地区」として限定された地域の枠を、例えば「市北西部」というような広域的な視点に広げたうえで、活動拠点を創造していくという在り方は、地域内外の障壁を取り除き、差別を解消していく大きな推進力を発揮することでしょう。

「いきいき市民活動センター」にも、そうした広域的な発想が求められています。2011年から4年間の指定管理期間を経て、各地区のそれぞれの「いきいきセンター」は、昨年12月、あらたな指定管理者が選定されました。今年4月からは、これまで地域のNPO法人が主体となって運営していた5つの地域は継続して管理運営することになりました。直接管理運営に携わることができていない地区についても、市民活動活性化事業への参画などを通じて、地域課題を訴えつつ、交流を深めていくことが大切です。

各地区の市立浴場についても、これまで管理運営をされてきた「一般財団法人京都市立浴場運営財団」の解散を受けて、新たに11浴場に3企業が指定管理者として運営が決まりました。それぞれの浴場管理者にも、創意と工夫が求められることになり、住民の憩いの場、公衆衛生の場、心と体を癒す場として、今後も地域住民に貢献していくことが期待されています

他方、昨年度、保健福祉局は各地区の旧診療所・保健所分室跡に医療や福祉関係施設の用途・目的を限定して「公募」を行いましたが、あらたに田中地区が応募をしました(これまでに、東三条、西三条、吉祥院は有効活用されています)。その結果、左京区内でも比較的高齢化率が高く施設等が少ない養正・田中地区に、今年1月から小規模多機能型居宅介護施設が整備され、地区内外からの利用者で溢れ順番待ちの状態が続いています。いずれも民間の社会福祉法人等が運営を行い、地域住民や運動団体との連携により、地域密着型の運営で福祉で人権のまちづくりの推進にもつながります。

また、西三条地区では旧壬生隣保館跡を活用して、盲養護老人ホームを併設した特別養護老人ホーム等の建設が始まりました。視覚に障害があるがゆえに介護保険制度による高齢者施設への入所を拒まれるケースなど介護保険外に置かれかねない視覚障がい高齢者へのサポートがある全国的にも稀少な施設として注目されています。このように「同和」地域に、部落問題だけではなく、障害をもった高齢者や、異なった文化的背景を持つ在日外国人の高齢者等の人権に配慮された福祉施設が誕生するということは、共生・協働の取り組みにとって大きな意義があります。

 「人権確立部会」については、私たちの取り組みの成果として、昨年6月に「事前登録型本人通知制度」が京都市においても導入されました。戸籍や住民票の不正取得を防ぐ有効な手段として、また個人情報の自己コントロール権を確立するためにも有効な制度として、多くの登録がのぞまれていますが、4月末現在の登録者数は766人と、京都市の人口147万人に対してわずかに0.054%という低さに留まっています。このような制度があることも、その登録方法もまだまだ周知がされていないのが現状です。京都市の広報や区役所等窓口での啓発に加え、私たち一人一人もその家族や友人知人へとこの制度の意義を伝え、まずは積極的に登録手続きを行っていくことが重要です。できるだけ登録しやすい方法を研究するべきだという私たちの要望により、京都市では郵送による手続きも可能となっています。他の自治体ではなかなか実現していないこの方法についても、情報の共有が図られる必要があります。

 京都市では、今年2月に「京都市人権文化推進計画」を改訂し、今後10年間の基本方針としました。またその計画の策定にあたり昨年3月に「人権に関する意識調査報告書」を公表しています。それによると住宅を選ぶ際に「同和」地区があることを気にする人は、いまだに半数近くいました(他に低所得者等生活困難な人が住む、外国人が多く住むも同じ傾向)。また、結婚相手を考える際に「同和」地区出身者かどうかを気にするという解答も3割以上ありました。啓発に関する課題はまだまだ山積していると言わざるを得ません。

「保育・教育部会」の課題について、「同和」奨学金返還裁判は、416日、京都地方裁判所で一審の判決がくだされました。結果は、奨学金を受給した「被告」である住民が敗訴となってしまいましたが、判決結論の付言として、「2006年の大阪高裁判決が違法としたのは、自立促進援助金支給に関する京都市長等の裁量についてであり、これを支給された借受者についてではない」ことを明言し、「奨学金の受給者には落ち度はなく、少なからぬ混乱と痛みをもたらしたこと。原告京都市は、自らの判断の誤りの責任を借受者側に転嫁するものとそしりを受け手もやむを得ない」とも陳べています。その上で、より誠実かつ真摯な対応を一層尽くすべきと記されました。これについては、今後も京都市は謙虚に受け止めるべきでしょう。ただ、その上で、被告された住民は控訴をしてこれからも闘うと表明されています。「同和」奨学金の意義と、現在における教育格差そして、そのことによる貧困や格差の連鎖を断ち切るための取り組みを、子どもたちの未来のためにも、部落解放同盟は積極的に担っていかなければなりません。

 

今、何をすべきか

 

 部落解放同盟京都市協議会の総力をかけて闘い抜いた、第18回統一地方選挙闘争は、悲願であった平井としき府連書記長の京都府会議員2期目を勝ち取ることができました。このことは、市内11支部の団結の賜物であると同時に、労働組合や地域活動で培ってきた繋がりを駆使し、さまざまな立場の人たちと連携する、私たちの力量の成果でもあります。

 しかし、一方で市会については、私たちが応援した議員の多くが敗れ、13議席あった民主・都みらいの議席は7議席にとなり、京都党、維新の党などの急進的な新自由主義の勢力が議席を伸ばしました。充分に議論しながら政策をすすめ、弱い立場の人々が尊重される行政を進めていくことが、難しい状況が生じています。

 私たちは、地域の課題を解決するためには、地域での世話役活動をはじめ議会活動などを強化していかなければなりません。今回の統一地方選で選挙協力した他党との連携と意思疎通をはかりながら、政治への参加を進めます。

 今年の具体的な活動方針として、まちづくりの課題では、空き店舗の入居基準や高齢者・子育て世代等が共存するコミュ二ティバランスを確保し地域の活性化と賑わいを図るために、住宅の承継基準の緩和と家賃問題であります。狭隘で築50年を経過した改良住宅には、戸数の半分以上が空き部屋になっています。京都市住宅行政は、「京都市市営住宅ストック総合活用計画」を進めていると言っていますが、七条地区のような市立芸大移転という大型プロジェクトと一部の地区以外は放置したままです。これでは差別の再生産になりかねません。この際、従来型の立替や住替えだけでなく、思い切った提案として、民間活力を活用した借上型改良住宅の建設やコーポラスティブ住宅の建設なども視野に入れたまちづくりを検討していきたいと思います。さらに、私たちの地区の中には、JR、地下鉄、私鉄などの公共交通機関や道路整備、公共施設などのインフラ整備が進み利便性の高いところがあります。また、近隣には世界文化遺産である下鴨神社、金閣寺、醍醐寺等をはじめ大学、商業施設もあり、周辺地域の特色を生かし共存共栄できる方策を主体的に支部内で論議を起こすことも大切です。

人権の課題では、先程も述べた、「事前登録型本人通知制度」の周知と登録拡大を部落解放同盟が先頭になって進めていかねばなりません。行政区別で見ても同盟各支部員数にも満たない登録者数では、声を大にして京都市に指摘ができません。総会終了後、登録強化期間として、拡大運動をおこないます。同時に、聞くに堪えないヘイトスピーチについては、昨年12月の市会において全会一致で意見書が採択されましたが、法規制を求める内容にまでは至っていません。今後は、府内の自治体への働きがけと法規制を求める国会活動を強化していかねばなりません。他方、「障害者差別解消法」を受けて、今年4月からスタートした「京都府障害のある人もない人も共に安心していきいきと暮らしやすい社会づくり条例」の運用を注視し、障がい者団体との連携を強めて、真の差別解消につながるように要求していきます。

これらの三課題の共通点は、差別を受けた当事者への支援や対策が不十分であったり不透明であったりして、具体的な救済ができないことです。現行制度(侮辱罪や名誉毀損罪等)の欠陥や限界を指摘して、泣き寝入りをさせず差別を許さない国民的世論を高揚させて「人権侵害救済法」の制定を求めた闘いを押しすすめます。

「保育・教育部会」については、昨年10月から施行された「いじめ防止対策法」にもとづき「市条例」を具体化させていく必要と、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を具体化させた京都府「子どもの貧困対策推進計画」を柱に取り組みを進めていきます。現在、6人に1人の子どもが貧困家庭という厳しい環境があります。しかも、貧困による家庭の学習環境の低下など教育に影響し、進学の有無は就労にも影響しています。教育の機会均等と就職の機会均等の保障は、まさに部落差別の本質でもあります。各地区でも、ひとり親家庭と生活保護世帯は年々増加しています。すべての子どもが生まれ育つ環境によって左右されることなく、その将来に夢や希望を持って成長していける社会の実現を目指すのが法律の基本理念であり、私たちの地域を「脚下照願(きゃっかしょうがん)」していきましょう。

これらの課題を検証し学習するため、市情報公開請求を行い、そこで得た情報や「出前トーク」などを活用して、現状と課題を明らかにし解決にむけて奮闘しましょう。年々めまぐるしく変化する福祉施策(高齢者福祉、障害者福祉、児童福祉、地域福祉等)を学習する機会として京都市協における「福祉・教育」、「人権確立」、「まちづくり」の各部会における学習会を積み上げていきます。