基調報告

 

 

 

1 はじめに

 敗戦後70年をむかえた本年は、戦争の惨禍に思いをはせ、加害の歴史も被害の痛みもふまえ、二度と戦争をおこしてはならないという決意を新たにするべき年でありました。しかし、9月19日、安倍政権は、自衛隊法改正案、重要影響事態法案(周辺事態法の改正)、船舶検査活動法改正案、国連平和維持活動協力法案、国家安全保障会議設置法改正案など10法案を一括した「平和安全法整備法案」と、新法「国際平和支援法案」を参議院で成立させました。多くの憲法学者、歴代の最高裁長官、内閣法制局長官さえもが「違憲」であると明言し、国民大きな反対運動が盛り上がるなかでの強行採決でした。戦争こそが人間を人間ではなくする、人権の源である命そのものを奪い去る、最大の人権侵害であることを思えば、許すことのできない暴挙です。また数の力による立憲主義の否定は、憲法によって守られている私たちの基本的人権をも脅かすものです。
 大きな時代の変わり目のなかで、今こそ私たち市民一人一人の人権感覚が問われようとしているのであり、平和と人権尊重を希求する全ての人々との連帯が本当に重要になっています。

2 『人権侵害救済法』制定が望まれる現状について

 大企業を優遇し、株価の操作のみによってその経済政策を成し遂げたように装う「アベノミクス」のもとで、格差や貧困の問題はますます深刻化し、差別事件、人権侵害が多発しています。インターネット上の差別書き込みは野放図に放置され、街頭でのヘイトスピーチは収まらず、また戸籍の不正取得や土地調査事件も後を絶ちません。また今年4月、5月には大阪、京都、兵庫の広範囲にわたり「部落差別は当然」とする大量の差別文書が公営住宅や皮革業者、県・府連解放同盟事務所等にばらまかれました。
 このような情勢のなかで、今年5月、民主を中心とした議員有志が現行法では対処できない不特定多数へのヘイトスピーチを禁じる「人種差別撤廃施策推進法案」を提出し、審議入りしました。この法案は、1995年に加盟した人種差別撤廃条約で定められた義務を具体化し、国の基本原則・方針を定める基本法であり、ヘイトスピーチを含む差別の禁止を宣言してはいるものの、罰則のない「理念法」です。本来であれば20年前に作られるべき法律です。しかし与野党の協議会は、「表現の自由」との両立で折り合えず、8月末に審議はストップ。課題は先送りされました。経済協力開発機構(OECD)加盟34カ国中、30カ国が人種差別や差別の扇動に対して刑事罰を設けている現状で、基本法さえ持たない日本は、「致命的に取り組みが遅れている」と指摘されています。まずは、この法律を成立させると同時に、地方議会も人種差別等を禁止する条例作りを率先して行うべきです。
 戸籍謄本等の不正取得に対する対応については、昨年京都府26市町村で、「事前登録型本人通知制度」が発足し、第三者による戸籍や住民票の取得に関し、事前に登録した市民に対して通知することにより、不正取得を防止すると同時に、個人情報の自己コントロール権を保障することが可能となりました。しかし、今年11月末現在で、京都市内の登録人数は1,041人で、京都市民全体の0.073%にすぎません。郵送での登録可能、延長申請の必要なし、本人へ通知するまでに30日間を設けることで弁護士会への説明をはたすなど、全国的にも注目されるルールをつくってきましたが、せっかくの制度でありながら、被差別当事者のみならず、人権上市民全体にとって必要な制度であることが周知・啓発されていないのが現状です。市民窓口課の職員はもちろんのこと、福祉や教育の分野でもさらに多くの市民に知らせていく必要があります。
 一方で特定秘密保護法の施行から1年をむかえ、政府は9万7460人の公務員らを「適正評価」の対象としたことを発表しました。国は自らに都合の悪いことを秘密として隠す一方で、国民のプライバシーを深く侵害し、マイナンバー制度の施行とも相まって、管理・把握しようとしています。適正評価は25人が拒否したと報道されましたが、プライバシーを守るために、職を懸けなければならない事態が生じています。身元調査が「正当なこと」とされ、一般市民の間にも、相互監視が進行することが危惧されます。
 障害者差別解消法の施行が、来年度4月からはじまるのに先立ち、京都府では今年4月から「京都府障害のある人もない人も共に安心していきいきと暮らしやすい社会づくり条例」が全面施行しました。これにより、「不利益取り扱いの禁止」「社会的障壁の除去のための合理的な配慮」「相談体制の整備」「不利益取り扱いに関する助言、あっせん」「共生社会の実現に向けた施策の推進等」が定められ、中でも差別や被害にあった人が解決のための助言、あっせんを求めるため「障害者相談等調整委員会」が設置されることとなり、私たちが求める「人権委員会」の先駆けともなる委員会として注目されます。
 このように、安倍政権のもとでは、すぐに「人権侵害救済法」の制定が実現できる状況にはありませんが、個別法の積み上げにより、「人権擁護」を積み上げていくことが大切です。
 
3 今後の取り組み課題と展望

 今年は「部落問題の解決は国の責務であり、国民的課題である」とした同和対策審議会答申から50年という節目の年でもあります。今年5月、全国知事会会長である山田啓二京都府知事に「同和対策審議会答申50年にあたっての要望書」を提出したのを皮切りに、各都府県連、また、京都府内においても要請行動が展開されました。「同対審」答申が指摘をした課題は今なお解決されていないことから、「同対審」答申後、「特別措置法」の施行による成果と今日的な課題を客観的に明らかにし、今後の同和行政・人権行政の方向性を示すよう求めました。
 さらに今年は、人種差別撤廃条約の批准から20年という年にもあたります。日本政府は、条約委員会から「部落問題は世系に対する差別である」との勧告を真摯に受け止め、国連に実態を報告すべきです。「特措法」が失効したから実態調査を行えないのではなく、特別施策が行われたからこそ、その成果がどのようにあらわれ、法が失効することによって、現状がどのようになっているのかということを、比較検討することが可能なのであり、それこそが、答申を受けて33年間にわたって展開された政策の評価となり得るのです。むしろ、一国内のマイノリティに対する政策として、国際的にも貴重な実践(モデル)として共有されることは世界にとって有益なのだと位置づける必要があります。
 「全国水平社創立宣言とその関連資料」の世界記憶遺産登録へ向けた私たちの取り組みは、多くの署名とまた京都府・京都市の議会決議等の賛同を得つつも、9月24日文部科学省の日本ユネスコ国内委員会から「上野三碑」、「杉原リスト」の2点が選定されたとの報告があり、今回の選定には残念ながら選ばれませんでした。しかし、全国水平社創立宣言は、被差別当事者が自ら誇りを持ち、人間を尊敬することで解放を希求する崇高な内容を持ち、他のマイノリティ集団を勇気づけ影響を与えた歴史的意義のある「人権宣言」です。今後とも、水平社創立宣言の精神を引き継ぎ、その意義を多くの人々に伝える取り組みを続けていきます。

4 具体的な取り組み

 私たち京都市実行委員会では、以上のような課題を具体化させ、「部落解放・人権政策確立要求」を勝ち取るべく次の運動を展開します。

(1)中央実行委員会、京都府実行委員会の運動方針にもとづき、積極的に活動していきます。引き続き衆参国会議員に要請行動を行います。
(2)あいつぐ差別事件・差別事象を広く市民に訴え、その解決に向けて広範な市民と連携し、ともに取り組んでいきます。
(3)「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」を活用し、憲法月間事業、人権月間事業などをおこないます。
(4)戸籍謄本等の不正請求を抑止するために、事前登録型本人通知制度の登録拡大にむけて取り組みを進めます。
(5)「全国水平社創立宣言とその関係資料」を「世界記憶遺産」の登録をめざして取り組みを進めます。
(6)加盟諸団体の部落問題学習・研究等に積極的に参加していきます。
(7)部落問題をはじめとしたあらゆる差別撤廃の活動に協賛・参加していきます。